『月刊日本』2011年12月号 羅針盤 2011年11月22日
朝日新聞では11月7日から四日連続で、「中国軍解剖」と題する大型記事が掲載した。筆者は中共軍について、かねてより詳しい報道を行い、ボーン上田賞を受賞している、北京駐在の峯村健司記者である。内容は、7日の「上」が現在我が国盛んにやられているサイバー戦、8日の「中」が宇宙ステーションへの無人宇宙船のドッキングを成功させたばかりの宇宙戦略、9日の「下」が女性を使ったスパイ活動、そして10日は「番外編」として、中共軍の総体に関する基本的な解説である。まことに時宜にかなった「好企画」と言わざるをえない。なおこれには「第1部」と銘打たれているから、今後も何度か掲載されるようである。.
峯村記者の報道の特徴は、なんと言っても中共軍という対象に良く食い込んでいることである。ボーン上田賞の受賞もそのあたりが評価されたのであろう。例えばサイバー戦の回では、サイバー戦士を教育する学校を直接取材している。それは山東省済南市郊外にある山東藍翔高級技工学校で、130ヘクタールの敷地があり、3万人の生徒が学んでいる。軍の技術者を養成する全国唯一の民間訓練校で、調理や自動車整備などの教育も行うが、掲載された写真には、5千平方メートルの巨大な教室に2千台のパソコンが並んでいるから、一度に2千人のサイバー戦士を養成しているわけである。
女性スパイの回では、スパイを経験した女性と、スパイを強要された女優を、直接取材している。農村出身の女性は十七歳でスパイになり二年間働いたが、その間例のハニートラップなどの活動を行った。写真も掲載されている女優は、ツイッターで自己の体験を暴露し、外国メディアの取材に応じるとあったので、峯村記者が対面して、三時間に渡って取材したが、その後連絡が取れなくなったという。
ところでこの大型記事のコンセプトが、最初の回の末尾に述べられているが、それは次のようにある。「中国軍が存在感を増し、周辺諸国や米国は警戒感を強めている。中国軍はどのような戦略に基づいて動いているのか。その実態を報告する」。確かに峯村記者の記事には、外では見られないような貴重な報告があることはある。その一例として、中共のハッカーと軍が結びついていることが紹介されている。中共の最大のハッカー組織「中国紅客連盟」は、昨年9月の尖閣事件のとき、日本の首相官邸や官庁への攻撃を呼びかけたが、連盟は軍との直接的関係を否定する。「だが、軍関係者によると、サイバー攻撃にかかわって捕まった17歳の少年が罪を許され、軍に採用されたケースもあった」。「軍関係者によると」とあるから、これも峯村記者の直接取材によるものだろう。
また峯村記者は、中共軍人の有する考え方にも、よく目配りしているといえる。例えばサイバー戦の回には、「軍情報工程大学長の王正徳・少将は2009年にまとめた『情報安全管理論』で、領土・領海・領空に加えてネット空間にできた『国境』を守ることが国家主権の核心とした」とある。また宇宙戦略の回では、空軍工程大学長の李学忠・少将が10年にまとめた「国家航空宇宙安全論」の、宇宙開発三段階計画を紹介し、「名指しはしていないが、米国への強い対抗意識がにじむ。『覇権主義大国による宇宙での恫喝政策に対抗しなければならない』という表現もあった」とある。
ところで峯村記者は中共軍人の軍事思想を紹介するのだが、それに対する疑問や警戒感は全く見られない。彼らの身勝手な言い分を、ひたすら紹介するだけである。サーバー戦の回では、自身に不振メールが送りつけられるサイバー攻撃を受けながら、サイバー攻撃の脅威にはまるで言及しない。ネット空間の国境を守ることが国家主権の核心なら、日本は中共から凄まじいサイバー攻撃を受けているのだから、我が国は国家主権を無茶苦茶に踏みにじられているわけである。また宇宙戦略の回には、中共は30年までには月に有人着陸して、最終的には月面基地の建設も構想しているとあるから、アメリカに対抗するというより、既にその先を行っている。そもそも「覇権主義大国による宇宙での恫喝政策」こそ、中共が一貫して追及しているものではないか。
要するに峯村記者のスタンスは、完全に中共側に立っているのである。すなわち峯村記者の実態は、中共軍部のスポークスマンであるといってよい。中共軍の異常で危険な膨張振りを、あたかも自然な動きであるかのように報道することによって、日本人を洗脳教育しているわけである。もちろんこれは峯村記者個人の問題ではなく、私が「北京大本営報道」と呼ぶ朝日新聞の報道体質を、見事に実践しているものである。